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倉庫火災のよくある原因と対策を過去の事例も交え解説

倉庫火災のよくある原因と対策を過去の事例も交え解説

投稿日:2022.01.15 
更新日:2022.03.17 
お役立ち情報

今回は、日本国内で過去に発生したいくつかの大規模倉庫火災をピックアップし、なぜ倉庫火災が大規模化してしまうのかを考えてみます。
近年では、物流拠点の集約がトレンドとなっており、大都市の近郊に超巨大倉庫が建設される事が増えています。こういった巨大倉庫の建設は、物流拠点を集約することで、人や設備などにかかるコストの削減ができる、荷物の転送が減少し配送効率が向上することなどがメリットとされており、大手物流企業がこぞって大規模物流センターの建設に向かっているような時代になっています。

ただ、さまざまな面にメリットが存在すると言われている物流拠点の集約という手法ですが、集約した拠点で火災が発生してしまうなどの事故が起きた時には、企業にとって致命的なダメージになってしまう可能性があります。実際に、過去の事例を見てみると、大規模倉庫で火災が発生した場合、消火活動が非常に困難で、とんでもない規模の被害に発展してしまっているケースが非常に多いように思えます。

そこでこの記事では、過去の倉庫火災から、倉庫火災の問題点などをまとめていきます。

近年の主な倉庫火災について

それではまず、日本国内の主な倉庫火災を整理しておきます。直近の例でいえば、大阪市此花区で発生した大規模倉庫火災が思い浮かぶと思うのですが、これ以外にも多数の倉庫火災事例が存在しており、特徴としては、鎮火までに長時間を要しているというのがポイントです。大阪市此花区の倉庫火災も、11月29日に出火したのですが、鎮火は12月4日の17時ごろと、1週間程度も燃え続けています。

  • 2009年6月 兵庫県神戸市
    鉄骨準耐火造3階建ての倉庫兼作業所1棟延べ4,715㎡のうち3,484㎡を焼損し、建物内で消火活動にあたっていた消防職員1名が殉職した。
  • 2017年2月 埼玉県三芳町
    焼損床面積約45,000m²、発生から鎮火に至るまでに約12日間を要するという大規模倉庫火災。この火災では、在館者全員が屋外に避難したが、初期消火の際に、このうち2人が負傷。
  • 2019年2月 東京都大田区
    冷凍冷蔵庫の配管の溶接工事中に断熱材のウレタンに引火。この火災では、逃げ遅れた者が死傷している。
  • 2020年4月 宮城県岩沼市
    東北6県に加工食品などを出荷する流通拠点での火災。鎮火までに6日を要し、延べ床面積約4万4千平方メートルが全焼。
  • 2020年7月 静岡県吉田市
    生活用品メーカーの工場内倉庫の火災。発生から約30時間後に鎮火したが、消火活動中の事故で消防隊員と警官が死傷。

このように、大規模倉庫の火災は頻繁とまではいわないまでも、それなりの件数が存在します。それでは、消防法などにより、火災予防が義務付けられているはずの大規模倉庫で、なぜここまで被害規模が大きな火災が発生するのでしょうか?
以下で、いくつかの火災事例について、その原因を考えていきます。

防火の視点から見た場合、倉庫には意外と弱点が多い?

倉庫は、材料や製品などの物品を一時的に収納・保管する建物であり、人が生活する場所ではないことから窓なども設けられないのが普通でした。しかし、近年の倉庫は、建物内部で多くの作業員が物品の集荷、仕分け、配送などの作業を行うケースが多くなっており、従来の倉庫の『当たり前』により多くの問題を抱えてしまうケースが多くなっていると言われています。

ここでは、上述したような、過去に発生した大規模倉庫火災から、なぜそこまで被害が拡大してしまったのかという原因について考えていきます。

①消火活動が困難な構造になっている

大規模物流倉庫などでは、集荷・配送を行う階では、トラックを横付けして荷下ろし、荷積みが行えるよう、大きな開口部が連続で設けられているケースが多いです。しかし、その他の階については、「無窓」となっていることが非常に多いです。これは、倉庫が、保管する物品の品質を維持するということが重要な目的ですので、温度変化や日焼けを防止するため、換気設備に頼って窓を無くす設計にされてことが多いからです。
なお、建築基準法施行令第126条の6により、3階以上の無窓階には非常用の進入口が設置されるのですが、空間が非常に大きくなることから、非常用口のみでは消火活動が非常に困難を極め、鎮火までに時間がかかるようになっていると言われています。実際に、昨年発生した大阪市此花区の倉庫火災でも、消火活動が長期化した理由について、「窓や出入り口などの開口部が少ない建物の構造が妨げとなった」と指摘しされています。
大阪市此花区の倉庫火災は、派遣社員の放火が出火原因だったと報道されていますが、消火活動が困難を極めたのは、その建物構造だとされています。

参照:LogisticsToday

②防火シャッターなどの不備

大きな空間を必要とする大規模倉庫は、建築基準法令により1,500㎡以内ごとに防火区画されることになっており、大規模倉庫では防火シャッターにより区画される(建基令第112条第1項)のが普通です。ただし、工場なども同様ですが、同項ただし書き規定を適用して区画が免除されている場合もあります。
また、防火シャッターは、閉鎖のための機構に不備があったり、障害物を置いていることで火災時に閉鎖しない確率が防火扉よりも高いとされており、防火シャッターの枚数が増える大規模倉庫では、火災が発生したとしても全ての防火シャッターを完全に閉鎖させるのが困難だと言われています。さらに、面積区画の防火戸は遮煙性能がなく煙が漏れてしまいますので、出火直後に大量の煙が倉庫内に拡散することで消火活動を困難にするケースが非常に多いと言われています。

本来、大規模倉庫での防火の視点からは、大空間となる倉庫などは、壁で区画する部分を増やし、壁の開口部をできるだけ小さくして防火シャッターで区画することが、火災リスクを下げることに繋がるとされているのですが、倉庫の使い勝手面を考慮した場合、そのような設計がなされることはありません。

なお、埼玉県三芳町で発生したアスクルの大規模倉庫火災では、建築基準法に基づき、面積区画として床面積1,500m²(1階のスプリンクラー設備設置場所は3,000m²)以下ごとに防火壁と防火シャッターで形成される防火区画が設けられ、竪穴区画として階段室、エレベーター室のほか、一部のコンベヤ等の床貫通部において防火区画が設けられていました。また、消防法の技術基準に従い、消火器、屋内消火栓設備、スプリンクラー設備(一部)、屋外消火栓設備、自動火災報知設備、誘導灯、消防用水及び総合操作盤なども設置されているなど、必要とされる防火対策はきちんと施されています。

しかし、過去に例を見ないほどの大規模火災になった…と言われるほど延焼が拡大してしまったのは、以下のようなことが原因とされています。

端材室上部の開口部(2階部分)の周囲に防火シャッターが設けられていたが、コンベヤに接触して閉鎖障害が生じていた。同様に、防火シャッターの不作動やコンベヤ等による閉鎖障害が2階及び3階において多数確認されており、火災初期の延焼経路となったものと推測される。
引用:平成29年版 消防白書

このように、防火シャッターなどが設けられていたとしても、出荷作業のために用いる設備が閉鎖の邪魔になったことで、火災初期の延焼を防げず、火災の規模が拡大したと考えられます。なお、大阪市此花区の倉庫火災後に、緊急立入検査が行われたのですが、この検査により14事業所に対し、94件の不備が指摘されています。つまり、いくら設備が整っていたとしても、それが正常に稼働できないような運用方法では、火災を防ぐことができないということです。

参照:大規模な倉庫に対する緊急立入検査の実施結果について

③倉庫は可燃物が密集している

最後は、倉庫ならではの火災の規模が拡大してしまう理由です。倉庫の目的は、顧客の手元に商品が届くまで、一時的に保管しておくという役割りを持ちます。そのため、より利益を出そうと思えば、可能な限り保管効率を高めていくことが重要で、実際に保管効率が可能な限り高くなるように進化していっています。例えば、どのような倉庫でも、空間を立体的に使って、大量の物品を保管するという工夫を行っていることでしょう。ただし、こういった保管効率を高めるという行為は、その分、可燃性物品を高密度で集積していくということを意味しています。

実際に、過去に埼玉県吉見町のコンピューター制御の無人ラック式倉庫で発生した火災では、出火初期にスプリンクラー設備が作動したにもかかわらず、物品があまりにも高密度に詰め込まれていたことから、火点に水がかからず初期消火できず、火災が拡大してしまい、鎮火までに23時間を要し、3,800㎡が全焼するという大規模火災に発展しています。
この火災事故を契機に、平成8年2月には、ラック式倉庫について棚ごとにスプリンクラーヘッドを設置すべきとするなどの、技術基準の整備が行われています。ただ、ラック式倉庫の防火安全対策が法的に整備されたものの、天井高を10m以下に設計して、スプリンクラー設備の設置を免れているケースも多いと言われています。

参照:e-Gov|消防法施行規則

まとめ

今回は、大規模倉庫における火災事故について、大規模火災に発展してしまう理由がどこにあるのかを、過去の火災事例から考えてみました。この記事でご紹介しているように、倉庫の存在目的自体が、倉庫の防火と相反する面があるという点が火災規模を大きくしてしまっている部分もあると考えられます。

ただし、大規模倉庫の建設は、建築基準法や消防法に則って建てられているため、本来はここまで火災規模が大きくなるようなことが無いよう、さまざまな防火対策が施されています。しかし、過去の事例を見てみると、防火シャッターが閉鎖できない状況になっていたり、点検の不備なのか、システム自体が不具合を起こしてしまい、初期消火に失敗しているケースが多くみられます。大前提として押さえておくべきなのは、倉庫に導入する防火設備に関しては、設置すれば良いというものではなく、万一の際に正常に動作するように普段から防火設備の点検・メンテナンスが必要不可欠です。

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