【令和5年4月1日施行】大規模庇に係る建築基準法施行令の見直しについて
投稿日:2023.04.03 お役立ち情報
本記事は、2022年11月20日に投稿した大規模庇に係る建築基準法施行令の見直しに関して、最新情報を追加した記事です。(2023年3月31日追記)
「建築基準法施行令の一部を改正する政令」が令和5年2月10日に公布され、令和5年4月1日に施行されます。この法改正は、建築物の定期調査などの対象拡大や、安全性を確保しつつ、近年の建築物に関するニーズを踏まえた規制の合理化を行うことが目的とされています。
本サイトでは、昨年11月に大規模庇に係わる建築基準法施行令の見直しについて、当時国土交通省から公表されていた見直し案などをご紹介していましたが、この度、正式な改正内容が発表されたので、「物流倉庫等に設ける庇に係る建蔽率規制の合理化」部分について、その改正内容を詳しくご紹介します。
本記事では、告示内容のポイントに合わせて、実際に倉庫の新設を行う場合に何が変わるのかについても詳しく解説します。
参照:建築基準法施行令の一部を改正する政令(令和5年政令第34号)について
Contents
法改正が行われた背景について
それではまず、大規模庇に係る建築基準法施行令の見直しが「なぜ行われたのか?」と言った背景についてご紹介します。
大規模庇に係る建築基準法施行令の見直しの必要性については、2022年11月9日まで行われていたパブリック・コメントの中で、以下のように説明されています。
① 規制を実施しない場合の将来予測(ベースライン)
(1)一定の軒等に係る建ぺい率算定上の建築面積の算定方法の合理化
近年、物流倉庫等において従来の想定よりも大規模な軒等を設けるケースが増えてきているが、現行制度では、これらの軒等について1メートルを超える部分は建ぺい率の算定の基礎となる建築面積に算入されるため、建ぺい率制限により確保される良好な市街地環境と同程度のものが確保されている場合であっても、大規模な軒等を設けることで建築面積が増大し、建ぺい率規制との関係で建築物本体のスペースが十分に確保できない状態が継続する。
引用:パブリック・コメント資料より
近年では、EC市場の拡大もあり、大型物流倉庫の需要が高くなっています。そして、そういった物流倉庫の中には、雨天時における荷役、荷さばきの効率化などを考えて、大規模な軒などを設けるケースが増えていると言われています。
しかし、法改正前の規定では、建ぺい率の算定基礎となる建築面積の算定に当たって、これらの軒などについて「1mを超える部分」が建築面積に算入される決まりになっています。そのため、物流業務の効率化などを考えて、大規模な軒などを設けた場合、結果として建築面積が増大して、建ぺい率規制との関係から、建物本体のスペースが十分に確保できなくなるという状況になります。
物流業界では、この不合理な状況の改善を目指し、「雨天時でも荷さばきが可能な大型の庇は荷役作業の生産性向上や、災害時の一時的な蔵置場として重要な役割を果たす」と言ったメリットをかかげ、建築基準法の緩和を長年要望してきました。
そして、国土交通省でも規制の合理化を図る必要があるとし、パブリック・コメントの中で、以下のような改正案を提示しました。
(1) 一定の軒等に係る建ぺい率算定上の建築面積の算定方法の合理化(令第2条第1項第2号関係)
建築物の建ぺい率の算定の基礎となる建築面積の算定に当たり、工場又は倉庫の用途に供する建築物の外壁又はこれに代わる柱の中心線から水平距離1メートル以上突き出た軒、庇、はね出し縁その他これらに類するもの(以下「軒等」という。)で、専ら貨物の積卸しその他これに類する業務のために設けるもののうち、当該軒等の端と敷地境界線との間の敷地の部分に有効な空地が確保されていることその他の理由により安全上、防火上及び衛生上支障がないものとして国土交通大臣が定めるものについて、その端から水平距離5メートルまで後退した線より外側の部分を算入しないこととする。
引用:パブリック・コメント資料より
これにより、工場や倉庫において、外部空間である積卸し・荷捌きスペースの一部が建築面積に算入されないようになるので、市街地における物流施設の建設でも、建築物の建築面積を確保しやすくなると期待されます。
具体的な改正内容について
それでは、建築基準法施行令の一部を改正する政令について、具体的な改正内容を解説します。以下に、法改正の概要を国土交通省の公式サイトから引用します。
- 定期調査の指定可能対象範囲の拡大
令和3年12月に大阪市北区で発生したビル火災を契機に行った緊急立入検査の結果を踏まえ、3階以上で延べ面積が200㎡を超える事務所等の建築物について、特定行政庁が定期調査報告の対象として指定できること等とする。 - 物流倉庫等に設ける庇に係る建ぺい率規制の合理化
物流倉庫等において、積卸し等が行われる庇の部分について、建蔽率規制の合理化を図り、物流効率化に資する大規模な庇の設置を容易にする。 - 耐火性能に関する技術的基準の合理化
木材利用促進に資する観点から、階数に応じて要求される耐火性能基準(火災時の倒壊防止のために壁、柱等が耐えるべき時間)について、60分刻みから30分刻みへ精緻化することとする。 - 無窓居室に係る避難規制の合理化
既存ビルの間仕切り改修によるシェアオフィス等の設置に資する観点から、無窓居室であっても、避難経路となる廊下等の不燃化等の安全確保のための一定の措置が講じられるものについては、主要構造部(壁、柱等)を耐火構造等とすることを不要化するとともに、地上等に通ずる直通階段までの距離を延長(窓等を有する居室と同等化)することとする。
引用:国土交通省公式サイト
物流倉庫等に設ける庇に係る建ぺい率規制の合理化について
引用:国土交通省資料より
上図から分かるように、令和5年4月1日以降、建ぺい率を算定する際、建築面積に算入しない庇の長さが、1メートルから5メートルに見直されます。ただし、「敷地境界線との間に空地を確保するなど、安全上、防火上、衛生上の要件を満たすこと」という一定の要件を満たさなければならないとされており、「一定の要件」は以下のように定められています。
引用:国土交通省資料より
「大規模庇に係る建築基準法施行令の見直し」に伴い、「安全上、防火上及び衛生上支障がない軒等」を国土交通大臣が告示で定めることが必要とされていて、以下のような要件が定められています。
- 庇端は敷地境界線から5m以上離隔
- 敷地境界線を基準点として、庇の高さに応じた離隔距離(1:1)を確保
- 庇部分は不燃材料とする
- 庇上部に上階を設けないこと(※非常用進入口、室外機置場等は可)
- 不算入となる庇の合計面積は、当該敷地の建築可能面積(敷地面積×当該敷地の建蔽率)の1割以下とする
法改正で何が変わる?
ここまで、令和5年4月1日に施行される「物流倉庫等に設ける庇に係る建蔽率規制の合理化」について、その詳細をご紹介しました。それでは、今回の法改正が施行された場合、倉庫を新築する際、以前と具体的に何が変わるのでしょうか?
その答えは、『改正前と比較した場合、庫内面積が拡大できる可能性がある。』となります。
また、今回の改正は建蔽率だけではなく、容積率も同様の規制緩和が適用されます。
庇の奥行を5m確保したい場合の倉庫面積
「敷地面積:1,000㎡ 建蔽率60%」の場所に平屋の倉庫を新設する場合を考えてみます。以下のイラストは、庇に係わる法改正の前後について、どれだけの倉庫面積が確保できるのかを比較したものです。
法改正前までは、庇の先端1mのみが建築面積に不算入とされていましたので、5mの大型庇を設置した場合の倉庫面積は520㎡となります。これが、今回の法改正により「不算入は庇先端から5m」となるので、単純計算で倉庫面積は600㎡確保できることになります。
ただ、注意しておかなければならないのは、安全上、防火上及び衛生上支障がない軒等を定める告示の中で、「不算入となる庇の合計面積は、当該敷地の建築可能面積(敷地面積×当該敷地の建蔽率)の1割以下とする」という要件が定められていることです。つまり、奥行5mの庇を設けたい場合は、以下のような計算になります。
この場合、最大不算入面積は「600㎡×0.1=60㎡以下」となるので、最終的な倉庫面積は、560㎡となります。なお、国土交通省が「建築基準法施行令の一部を改正する政令」の解説動画を公開していますので、以下の動画もぜひご参照ください。
※倉庫等の大規模庇等に係る建蔽率算定上の建築面積の算定方法の合理化については25:06からです。
まとめ
今回は、令和5年4月1日に施行された「物流倉庫等に設ける庇に係る建蔽率規制の合理化」について解説しました。
記事内でご紹介したように、従来の法律では、庇の先端1mのみが建築面積に不算入とされていたものが、庇先端から5mまで建築面積に不算入となり、これから倉庫の新設を行う場合には、確保できる倉庫面積が大きくなります。ただ、「安全上、防火上及び衛生上支障がない軒等を定める告示」により、いくつかの要件が定められています。
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