トラックGメンとブラック荷主とは?物流クライシスの解決策を解説
投稿日:2025.01.14 お役立ち情報
EC市場の急拡大などによる荷物取扱量の急増もあり、物流ニーズは日々高まっていると言われています。
しかしその一方で、10年程度前から顕在化しているとされる「物流クライシス」と呼ばれる現象が、物流の2024年問題以降さらに深刻になるのではないかとささやかれています。
この記事では、物流クライシスとはどのような問題なのか、さらにこの問題を解決するために創設されたトラックGメンの役割などについて解説します。
Contents
物流クライシスとは?
「物流クライシス」とはどのような問題なのか、また物流クライシスが私たちにどのような影響を与えるのかについて解説します。
物流クライシスとは、EC取引の増加などによる荷物取扱量の急増や物流業界での人手不足など、複合的な要因により、これまでと同じような物流サービスの提供が困難になる問題を指しています。
物流業界では、既に荷物量が限界に近づきつつあるとされている中、2024年4月からはトラックドライバーの時間外労働に上限規制が設けられたこともあり、ドライバー不足がさらに深刻化して完全に処理能力の限界を超えてしまうのではないかと問題視されています。実際に、NX総合研究所が公表した『「物流の2024年問題」の影響について』という調査報告の中では、国内の輸送能力について以下のような指摘がなされています。
ドライバー不足により、2030年には輸送能力の19.5%(5.4億トン)が不足するとの推計。
2024年問題の影響(2024年時点)と合わせて、輸送能力の34.1%(9.4億トン)が不足する可能性。
引用:NX総合研究所「物流の2024年問題」の影響について
国内の輸送力が2〜3割も失われてしまえば、私たちの日常生活にも大きな影響を及ぼすのは間違いないでしょう。したがって、物流クライシスの影響は、物流業界だけにとどまらず、日本全体のビジネスやサービスにさまざまな影響を及ぼす非常に深刻な問題と捉えられています。
物流クライシスによる影響について
物流クライシスは、ビジネス領域と私たちの日常生活の双方に大きな影響を及ぼす問題となります。例えば、日本全体のビジネスやサービスに対して以下のような影響が考えられます。
- 荷主の売上減少
国内の輸送能力が低下すれば、物流が滞り、ECなどの売上が低下する - さまざまな業界の生産性低下
輸送力が低下すれば、原材料の配送なども滞ります。その結果、製品の製造などに支障をきたすだけでなく、小売りなどさまざまな業種の生産性低下につながる恐れがあります - 輸送に関わる業種・サービスの低迷
モノを運ぶ人の絶対数が減少することにより、それに関連する業種・サービスの利用率低下が指摘されています。例えば、倉庫会社や高速道路のサービスエリア、ガソリンスタンドやコンビニなどの利用率低下が考えられます
このように、物流クライシスは、物流業界だけの問題ではなく、ほぼすべての業界に深刻な影響を与えると考えられます。さらに、日常生活にも以下のような影響が生じるとされています。
- 配送費用の上昇
- 物流サービスの品質低下
- 商品の供給不足
- 渋滞・路上駐車の増加など、交通網の麻痺
物流クライシスは、一般人の日常生活にも大きな影響を与えます。
物流業界の人手不足の解消を考えた時には、賃上げなど労働環境の改善といった対策が施され、それが運送費用の上昇につながる可能性が考えられます。また、既に始まっていますが、運送業者が確保できなくなると、荷主は自社便や個人ドライバーの活用を積極的に行うようになります。この場合、配送効率の悪い小ロットでのトラック便が増加する、交通マナーの悪いドライバーが増えるなどといったことが懸念され、結果的に渋滞や交通事故などが増えて、交通網が麻痺する可能性もあるでしょう。
トラックGメンとは?ブラック荷主の関係性について
ここまで、さまざまな業界に深刻な影響を与えるとされる物流クライシスがどのような問題なのかを解説しました。そして、物流クライシスは、古くからある業界内の悪しき商習慣も大きな要因とされています。
例えば、荷主や元請け会社が運送会社に対して、長時間の荷待ちや過積載での運行を要求する、本来の依頼にない荷物の積み下ろしを行わせるといった、『依頼者』という立場を利用した不適切な取引が存在するとされ、これが物流企業の大きな負担となっていたのです。
そこで、物流業界に存在する問題を解決するため、政府は適正な取引を阻害する疑いのある荷主企業・元請事業者をブラック荷主と位置づけ、監視の強化を目的に「トラックGメン」が創設されたわけです。なお、国土交通省では、トラックGメンのことを以下のように定義しています。
トラックGメンとは?
トラックGメンは、適正運賃の収受や労働環境の改善を実現し、2024年問題の解決を目指すため国土交通省が創設した専門部隊です。「プッシュ型(積極的)情報収集」の他、違反原因行為の疑いのある荷主・元請事業者本社への「働きかけ」や「要請」等を行い、疑いが事実であれば、改善に向けた計画策定を指導します。
引用:国土交通省資料より
トラックGメンと聞くと、過積載や危険な運転を取り締まるなど、ドライバー側を監視する組織のように感じますが、そうではなく令和5年6月に発表された物流革新に向けた政策パッケージに基づき、違反原因行為の疑いのある荷主・元請事業者本社の監視強化などを目的に令和5年7月に創設されています。
トラックGメンは具体的に何を取り締まる?
トラックGメンは、物流革新に向けた政策パッケージの中で言及されたものです。この政府パッケージ自体は、物流業界で問題となっている2024年問題に対応するため、ドライバーの賃上げや人材確保をどのようにして行っていくかの取り組みをまとめたものとなります。
ただその中で、「商習慣の見直し」という項目があり、今まで荷主や元請け会社が運送会社に対して習慣的に行っていた、依頼者という立場を利用した不適切と考えられる取引を見直そうという動きがあり、これがトラックGメンの創設につながった形です。トラックGメンが監視、是正指導する具体的な違反原因行為は以下のような行動とされています。
引用:国土交通省webサイトより
参照:「物流革新に向けた政策パッケージ」のポイント
まとめ
現在、物流業界では人手不足の深刻化が大きな問題となっており、適切な対策が実施されなかった場合には、モノが運べなくなるのではないかと懸念されています。実際に、政府が公表した資料の中でも、「何も対策を講じなければ、2024年度には14%、2030年度には34%の輸送力不足の可能性がある」という試算が公表されています。
そこで物流業界では、運送会社が法令を遵守し、効率よくモノを運べる体制を整えることが重要とされるようになり、「荷待ちを減らすためのバース予約システムの導入」「積み下ろしの負担軽減のため、パレット出荷に変更する」など、荷主側の工夫と改善が求められるようになっています。
物流クライシスの解決を図るには、物流企業の労働環境の改善や最新技術の導入なども大切ですが、物流業界にはびこる悪しき商習慣を見直していくことも非常に重要です。「今までがそうだから、これからもやってくれる」という意識の企業は、ブラック荷主としてトラックGメンからの勧告を受けたり、最悪の場合、運送会社側から取引を断られる事態になるかもしれません。
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