医薬品倉庫建設の際に重要な適正流通(GDP)ガイドラインを解説
投稿日:2023.08.18
更新日:2023.09.25
お役立ち情報
日本国内での「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン(以下、GDPガイドライン)」は、2018年12月に厚生労働省より発出されました。
GDPガイドラインは、法的に強制力があるものではなく、各企業が自主的に取り組むべきガイドラインですが、医薬品物流に関連するさまざまな企業では、GDPの検討が行われ対応が始まっています。そのうえ、GDPが対象とされる業界は幅が広く、医薬品の製造販売業のみならず、医薬品の卸売り業界、医薬品の保管、配送を担う倉庫・輸送業界、設備機器業界など、多岐にわたる企業がGDPの対応に苦慮されていることだと思います。
GDPは、もともと医薬品の品質確保などを中心とした医薬品製造業など、医薬品業界寄りのコンセプトであることもあって、倉庫業界など他の業界の方からは「GDPガイドラインを読んだけども、何をすれば良いのかよくわからない」と言った声を耳にする機会も少なくありません。そこで当記事では、医薬品倉庫などにおいて重要となるGDPのポイントを解説します。
Contents
GDPとは?
それではまず、医薬品物流で重要な位置づけとなっている『GDP』について、これが何を意味しているのかを簡単に解説します。
GDPは、「Good Distribution Practice」の頭文字を取った略語で、日本語では「医薬品の適正流通」と訳されます。簡潔に言うと、医薬品の流通プロセスにおいて、医薬品の品質を厳格に管理するために作られた基準がGDPです。
医薬品は、工場で製造された後に出荷され、倉庫業者や輸送業者などを介しながら卸業者を経て、医療機関や薬局などに届きます。GDPは、この医薬品の流れの中で、工場から出荷後の医療機関や薬局に届くまでの品質確保の基準となります。なお、工場での医薬品製造に対する品質基準では「GMP(Good Manufacturing Practice)」というものがあり、医薬品が工場を出てからの基準がGDPということになります。そのため、GDPとGMPは補完関係にあるという言い方ができ、両者を合わせて『GMDP』と言われることもあります。
なお、GDPとGMPの違いについては、GDPが『輸送・保管中の医薬品の品質管理』に重点が置かれているということです。医薬品の中には、温度感受性が高い製品や、低温管理が求められる製品が非常に多いです。そのため、医薬品が工場を出荷された後、陸上や海上、航空輸送を行われている際はもちろん、積み下ろし作業などの荷役作業中や保税倉庫での保管が行われる時でも、それぞれの医薬品に適した温度を守らなければいけません。輸送中、どこか一つのポイントでも温度逸脱が発生してしまうと、医薬品の品質劣化を起こす原因となります。
そのため、医薬品の輸送・保管の際、適切な温度の逸脱を防ぎ、患者さんの手元に届くまでの流通過程における品質保証を目的として、GDPが作られました。
2018年12月に日本でもGDPガイドラインが発出
日本でも、2018年12月に厚生労働省より国際基準に基づくGDPガイドラインが発出されています。なお、日本版ガイドラインの目的については、以下のように説明されています。
高水準の品質保証の維持と医薬品の流通過程での完全性を保証するため、卸売販売業者等の業務の画一性を推進し、医薬品取引における障害をさらに除くための参考となる手法として、本ガイドラインを作成した。
本ガイドラインは、卸売販売業者等がそれぞれのニーズに合わせた規則を作るための根拠としても利用することを意図している。
引用:医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン
GDPガイドラインでは、薬機法における「医薬品」が対象となっていて、具体的には医療用医薬品、体外診断用医薬品(IVD)、一般用医薬品(OTC)などとなります。これらの医薬品の保管や輸送に関わる事業者は、GDPガイドラインの基準を遵守しなければいけません。例えば、医薬品倉庫などを建設する際には、医薬品の温度管理や温度逸脱発生時の対応策を検討・実施しなければいけません。
医薬品の温度管理のポイント
GDPでは、輸送・保管時の温度管理に、特に重点が置かれています。医薬品の中には、温度変化に弱い製品や低温管理が求められるものが多いため、輸送や保管時に温度が急激に変化してしまう、適切な温度帯を逸脱するといった事態が起きた時には、医薬品そのものの品質劣化を招く恐れがあるからです。
したがって、医薬品の輸送・保管にあたっては、徹底した温度管理をおこない、万が一温度の逸脱が発生した時には、速やかに対応ができるような仕組みづくりが必要とされています。それでは、医薬品の温度管理は、どのような点に注意しなければならないのでしょうか?以下に、医薬品の保管や輸送を行う時の温度管理のポイントをいくつかご紹介します。
温度マッピング
GDPガイドラインの中には以下のように定められています。
保管場所の使用前に、適切な条件下で温度マッピングを実施すること。
温度モニタリング機器(例えばデータロガー)は、温度マッピングの結果に従って適切な場所に設置すること。
リスク評価の結果に依って、若しくは設備又は温度制御装置に大きな変更が行われた場合には、温度マッピングを再度実施すること。
数平方メートル程度の小規模な施設の室温については、潜在的リスク(例えば、ヒーターやエアコン)の評価を実施し、その結果に応じて温度センサーを設置すること。
引用:医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン
倉庫や医薬品の配送を行うトラックの荷室などについては、医薬品を保管する場所の温度分布を温度センサーなどを用いて測定し、温度マッピングを実施するようにしましょう。温度マッピングの目的は、保管する場所の違いや、有負荷状態(荷物が満載の状態)となっても、適切な温度を逸脱しないかを確認することで、これを行うことで、医薬品や医療機器を輸送・保管するうえで、正しい保管条件が整っているかどうか検証することができます。
保管場所の温度をモニタリングする
医薬品を保管する場所については、常時、温度をモニタリングすることが大切です。季節ごとの寒暖差が大きい日本では、夏季や冬季など季節によって保管場所の温度が変動する可能性があります。
GDPガイドラインでも、「温度モニタリング機器(例えばデータロガー)は、温度マッピングの結果に従って適切な場所に設置すること。」などと、保管場所のホットスポットとコールドスポットを考慮したうえで、適切な場所に温度センサーなどを設置して、温度の常時モニタリングをすることを求めています。
温度逸脱が発生した際、速やかに検知・警報するシステムが必要
医薬品を保管している場所で、温度逸脱が発生した時には、速やかにそれを検知し、何らかの対処をしなければいけません。GDPガイドラインでも以下のように警報システムについて求めています。
あらかじめ定められた保管条件からの逸脱が発生した際に警告を発する適切な警報システムを備えること。
警報のレベルを適切に設定し、適切な機能性を確保するため、警報は定期的に点検すること。
引用:医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン
医薬品の保管場所には、上述した温度を常時モニタリングする機器とセットにして、あらかじめ設定した医薬品の保管温度を逸脱した際に、自動でその事実を検知し、警報を鳴らすシステムの導入が求められます。温度逸脱の検知・警報システムの導入は、適切な温度管理を実現し、保管物品の品質劣化を防ぐことができるようになります。
まとめ
今回は、医薬品物流に関わる企業様が押さえておきたい、「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」のポイントについて解説しました。
記事内でご紹介したように、医薬品の中には、品質を保つために低温環境での保管が求められるもの、温度変化に弱いため温度管理が求められるものがたくさん存在しています。例えば、皆さんの記憶にも新しいもので言えば、新型コロナウイルスワクチンがあります。このワクチンは、『超低温』下での保管・輸送が求められる医薬品なのですが、各自治体で保管する際に温度管理の不備が生じ、多くのワクチンが使用不可になったという事態が頻発していました。
医薬品倉庫は、医薬品の品質を保ちながら保管しなければならないため、温度管理や温度モニタリング、万が一温度逸脱があった時の警報システムなどの導入が求められます。
GDP基準に即した計画が求められる倉庫や工場の新設・建設をご検討の方は、実績豊富なRisokoに是非ご相談ください。
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