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リチウムイオン電池貯蔵に関する法改正が施行。具体的な留意点を解説【動画で解説】

リチウムイオン電池貯蔵に関する法改正が施行。具体的な留意点を解説【動画で解説】

投稿日:2023.09.10 
更新日:2024.04.19 
お役立ち情報

令和5年12 月27 日にリチウムイオン電池貯蔵に関する法改正が施行されました。

その内容は、消防法上、危険物に該当するリチウムイオン蓄電池の保管に関するものが盛り込まれており、リチウムイオン蓄電池を保管する際の安全規則の緩和や、消火設備などで一定の基準を満たしていれば、現在の規制よりも広いスペースで保管できるようになることなどが柱となっています。

そこで、リチウムイオン蓄電池の保管条件が変更することに伴い、危険物屋内貯蔵所としての消火設備仕様や留意点を整理しました。
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注意

これより後の情報は、総務省消防庁より9月25日時点に公表されていた危険物の規制に関する政令の一部改正案について解説しています。

その内容は、消防法上、危険物に該当するリチウムイオン蓄電池の保管に関するものが盛り込まれており、リチウムイオン蓄電池を保管する際の安全規則の緩和や、消火設備などで一定の基準を満たしていれば、現在の規制よりも広いスペースで保管できるようになることなどが柱となっています。

リチウムイオン蓄電池は、EV(電気自動車)やモバイルバッテリー、家庭用蓄電池などの需要が増加していることもあり、今後さらに国内の生産工場が増加していくと予想されています。そしてその後、製造されたリチウムイオン蓄電池の保管需要も増えていくと予想されていく中、自動車業界などから保管の効率化に向けて規制緩和を求める声が高まっていたという背景があります。そこで消防庁は、2022年3月に「リチウムイオン蓄電池に係る火災予防上の安全対策に関する検討会」を発足し、さまざまな検証・実験を行ってきました。

2023年1月5日に開催された第3回会合で「リチウムイオン蓄電池を貯蔵する屋内貯蔵所の面積、階数、軒高制限」について見直しの方向性が示されていましたが、このほど具体的な規制緩和の内容や施行日が消防庁より発表されましたので、速報として今回の変更点についてまとめます。なお、「危険物の規制に関する政令の一部を改正する政令(案)」は、公表と同日、パブリックコメント(意見募集)が開始され、10月25日までに集まった意見を踏まえ、年内に改正を施行したい考えとなっているようです。

参考資料:総務省消防庁資料より
 

規制の見直しが行われる理由について

危険物の規制に関する政令の一部改正が行われる理由について簡単にご紹介します。日本では、2050年カーボンニュートラルが目標として掲げられていますが、脱炭素型調整力供出リソースの一つとして、定置型蓄電池やEVの導入拡大が重要とされています。現在、高性能蓄電池の代表格はリチウムイオン蓄電池なのですが、リチウムイオン蓄電池の電解液は引火性液体で、消防法で定める危険物に該当します。そのため、リチウムイオン蓄電池の貯蔵などに関しては、以下のような厳格な規制が設けられています。
 

引用:資料3-1リチウムイオン蓄電池を貯蔵する屋内貯蔵所の面積、階数、軒高制限の見直し

上記の規制が設けられていることから、一つの倉庫では、少量のリチウムイオン蓄電池しか貯蔵することができず、貯蔵・物流コストが高額化する一因となり、今後のさらなる蓄電池導入拡大の足かせになると考えられ、産業界から規制緩和の要望が出されていました。実際に、消防庁危険物保安室は、今回の規制緩和の目的を以下のように説明しています。

リチウムイオン蓄電池については、2050年カーボンニュートラルを目指して普及拡大が推進されているところであり、その普及拡大に向けて大量の蓄電池を効率よく保管するため、大規模な貯蔵所の建設が求められている。
リチウムイオン蓄電池は、その電解液が消防法(昭和23年法律第186号。以下「法」という。)に定める危険物であるため、危険物の規制に関する政令(昭和34年政令第306号。以下「令」という。)で定める技術上の基準を満たす貯蔵所で貯蔵する必要があり、その貯蔵倉庫は平屋で床面積は1,000㎡までとする等の基準が定められている。
これらの規制について一定の要件を満たす場合は適用しないこととする特例を設ける改正を行わなければ、事業者がリチウムイオン蓄電池を貯蔵するための大規模な貯蔵所を建設することができない。特例を設けることにより、リチウムイオン蓄電池の大規模な貯蔵所の建設が可能となり、国内のリチウムイオン蓄電池の普及拡大に寄与するものである。
引用:総務省消防庁資料より

 

リチウムイオン蓄電池の消火実験について

「リチウムイオン蓄電池に係る火災予防上の安全対策に関する検討会」では、実際にスプリンクラー設備を用いた消火実験を行うことにより、必要な放水量や放水密度などの検証を行っています。消火実験は、「消防法による一般のラック式倉庫に設けることとされているスプリンクラー設備」のほか、「米国FM社と同様の基準のスプリンクラー設備」「ドイツ保険協会と同様の基準のスプリンクラー設備」の3パーターンで行われ、保管中のリチウムイオン蓄電池の火災が有効に消火できるかの検証が行われています。
 

引用:資料3-1リチウムイオン蓄電池を貯蔵する屋内貯蔵所の面積、階数、軒高制限の見直し

この消火実験では、現状の消防法による「一般のラック式倉庫に設けることとされているスプリンクラー設備」では、一定の火災抑制効果は認められるものの、上段の燃えぐさが下段への散水障害となったとされています。また、樹脂製のパレットを使用していた場合、パレットが溶融し、燃えながら下段に垂れ下がることで、特に下段の燃焼物へは有効に散水できなくなるため、有効な消火方法とは言えないと判断されています。
一方、欧米並みの高い能力を持つスプリンクラー設備の場合、スプリンクラー作動後、迅速に火勢を押さえ込めたことが確認されています。そのため、検討会が行った消火実験と同等以上の放水性能を持つ消火設備を設置し、貯蔵方法も同等であればリチウムイオン蓄電池の火災を初期に消火することが可能と判断され、リチウムイオン蓄電池の貯蔵に関わる規制を緩和しても、火災安全性能は確保できると判断されました。

また、これに併せて、以下のような評価も指摘されています。

○ 屋内貯蔵所が長時間の火災に耐えられるよう耐火構造とし、かつ、スプリンクラー設備が早期にかつ確実に放水できるよう、開放型のヘッドを用い、自動火災報知設備の感知器に連動して作動するようにする。

○ また、樹脂製のパレットは長時間炎がついたまま容易に消火できないことが確認されたことから、パレットは樹脂製以外とするべきである

引用:資料3-1リチウムイオン蓄電池を貯蔵する屋内貯蔵所の面積、階数、軒高制限の見直し

 

リチウムイオン蓄電池保管に関する規制緩和の具体的な内容

リチウムイオン蓄電池の保管に際しては、リチウムイオン蓄電池の電解液が危険物に該当するため、消防法に基づき、総量1,000リットル以上を屋内で保管する場合、「危険物施設」として火災が起きても広がらないよう平屋建て・床面積を1000㎡以下など、安全性を確保するための規制が設けられています。

これが、産業界からの要望に応える形で規制緩和が行われることになっていて、その内容は、欧米並みの高い能力を持つ消防設備を取り入れることで、階数や床面積などの規制の対象外とすることや、一定の条件に合致すれば、一般倉庫での保管も可能にすることが盛り込まれています。

具体的な改正内容について、総務省が公表している資料から以下に引用させていただきます。

(1)リチウムイオン蓄電池の貯蔵に係る規制の見直し
① 屋内貯蔵所の位置、構造及び設備の基準の特例規定の整備【令第 10 条関係】
蓄電池により貯蔵される一定の危険物のみを貯蔵する屋内貯蔵所の軒高、階数、面積に関する規制を合理化するため、位置、構造及び設備の技術上の基準について、省令で特例を定めることができるようにする。
② 消火設備の基準に係る特例規定の整備【令第 20 条関係】
蓄電池により貯蔵される一定の危険物のみを貯蔵する屋内貯蔵所に設置しな危険物の規制に関する政令の一部を改正する政令(案)等についてければならない消火設備の基準について、省令で特例を定めることができるようにする。
(中略)
① 蓄電池により貯蔵される総務省令で定める危険物【規則第 16 条の2の7関係】
総務省令で定める危険物は、リチウムイオン蓄電池により貯蔵される第2類又は第4類の危険物とする。

② リチウムイオン蓄電池を貯蔵する屋内貯蔵所の位置、構造及び設備の技術上の基準の特例【規則第 16 条の2の8から第 16 条の2の 11 まで関係】
蓄電池により貯蔵される一定の危険物のみを貯蔵する屋内貯蔵所に係る令第10 条第1項に掲げる基準の特例として、以下の基準に適合するものは、令第10条第1項第4号から第6号まで、第11号及び第12号から第15号までの規定を適用しないこととする。また、蓄電池により貯蔵される一定の危険物のみを貯蔵する屋内貯蔵所に係る令第10条第3項から第5項までに掲げる基準の特例を定める。
・ 貯蔵倉庫は、各階の床を地盤面以上に設けるとともに、床面から上階の床の下面(上階のない場合には、軒)までの高さを 12 メートル未満とすること。
・ 貯蔵倉庫は、壁、柱、床及びはりを耐火構造とし、かつ、階段を不燃材料で造るとともに、延焼のおそれのある外壁を出入口以外の開口部を有しない壁とすること。
・ 貯蔵倉庫の2階以上の階の床には、原則として、開口部を設けないこと。
・ 蓄電池の充電率は 60%以下とすること。
・ 蓄電池の貯蔵方法は、水が浸透する素材で包装し、又は梱包すること等の基準に適合していること。

③ リチウムイオン蓄電池を貯蔵する屋内貯蔵所に係る消火設備の基準の特例【規則第 35 条の2関係】
蓄電池により貯蔵される一定の危険物のみを貯蔵する屋内貯蔵所に係る消火設備の基準の特例として、以下の基準に適合するものは、令第20条第1項及び第2項を適用しないことを定める。
・ 第二種のスプリンクラー設備(開放型スプリンクラーヘッドを用いるものに限る。)、第四種及び第五種の消火設備を設置すること。
・ 第二種のスプリンクラー設備の設置基準は、蓄電池の貯蔵方法に応じて定める基準に適合したものであること。

引用:総務省資料より

リチウムイオン蓄電池の貯蔵に係る規制の見直しについては、階数と面積に関する規定は完全に撤廃されているので、防火区画も含めて建築基準法に準ずるということだと考えられます。ただその一方で、以下の規定は今後も残るということに注意が必要です。

特に、現時点では『第三の二号:独立専用建築物』の規制が緩和とならない事から、区画等による一般倉庫との併用は認められないため、大型化は可能だが、リチウムイオン電池保管専用の倉庫となり新規開発は限定的になる事が想定されます。

  • 第一号  :保安距離
  • 第二号  :保有空地
  • 第三号  :標識、掲示板設置
  • 第三の二号:独立専用建築物
  • 第七号  :屋根の放爆構造
  • 第八号  :出入口の規定(防火設備、特定防火設備)
  • 第九号  :網入りガラス
  • 第十号  :床面への水の進入、浸透防止

改正案の施行日について

総務省消防庁が政令の一部改正案について、2023年9月25日に公表し、同日にパブリックコメント(意見募集)が開始されました。パブリックコメントの期限は10月25日までで、集まった意見を踏まえ、年内に改正を施行したい考えとなっています。

 

まとめ

今回は、総務省消防庁より9月25日に公表された危険物の規制に関する政令の一部改正案について解説しました。

2050年カーボンニュートラル実現のための一つの要素として、EVや定置型蓄電池のさらなる導入拡大が重要とされています。しかし、現在最も主流のリチウムイオン蓄電池は、電解液が危険物に該当するため、保管に際して厳しい規制が設けられていて、貯蔵・物流コストが高額化する一因となっています。

この状況を改善するため、産業界からはリチウムイオン蓄電池の貯蔵などに関する規制緩和が求められ、このほどリチウムイオン蓄電池を保管する際の安全規制の見直しが行われるという運びになっています。なお、今回の規制緩和により、施設の大型化が可能になるのですが、その一方で、高感度スプリンクラーや貯水槽の整備など大きな投資が必要になる点は注意が必要です。

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