燃料費高騰への燃料油価格激変緩和補助金と燃料費削減のための取り組み
投稿日:2023.05.30
更新日:2023.06.19
お役立ち情報
世界情勢の不安定化や円安問題、新型コロナウイルス問題などの影響から、さまざまなモノやサービスの価格が急激に高騰しています。
特に『燃料(原油)』の価格高騰は、物流業界に大きな影響を与えており、2023年2月には、国内大手宅配企業が相次いで運賃の値上げを発表しています。
そこで当記事では、燃料費高騰が物流業界に与える影響を少しでも抑えるため、日本政府が行っている『燃料油価格激変緩和補助金』の内容と、燃料費高騰に対する物流企業の取り組みをご紹介します。
Contents
燃料油価格激変緩和補助金とは
日本政府が燃料費高騰の対策として行っている『燃料油価格激変緩和補助金』がどのようなものなのか解説します。この補助金制度は、以下を目的に制定されています。
燃料油価格激変緩和対策事業とは?
コロナ禍における「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」(令和4年4月26日 原油価格・物価高騰等に関する関係閣僚会議にて取りまとめ)に基づき実施する施策であり、原油価格高騰が、コロナ下からの経済回復の重荷になる事態を防ぐため及び国際情勢の緊迫化による国民生活や経済活動への影響を最小化するための激変緩和措置として、燃料油の卸売価格の抑制のための手当てを行うことで、小売価格の急騰を抑制することにより、消費者の負担を低減することを目的としています。
引用:経済産業省資源エネルギー庁特設サイトより
燃料油価格激変緩和補助金の仕組み
燃料油価格激変緩和補助金は、その名称の中に『補助金』という言葉が入っているため、ガソリン燃料などを使用する消費者に対して、補助金が支給される制度と考える方がいます。しかし、政府の公式サイトで「消費者に直接補助金を支給する制度ではありません。また、小売価格の高騰を避けるための制度であり、価格を引き下げる制度ではありません。」という注意書きがあるように、燃料卸売価格の抑制のための手当を行うことで、小売価格の急騰を抑制することが目的となっています。下の図で全国の平均価格を確認すると急騰は抑えられているように見受けられます。
画像出典:経済産業省資源エネルギー庁特設サイトより
以下に。燃料油価格激変緩和補助金による燃料油価格抑制の仕組みを政府の公式サイトから引用してご紹介します。
〇緩和措置期間中、全国平均ガソリン価格が1リットル170円(※1)以上になった場合、1リットルあたり5円を上限(※2)(※3)として、燃料油元売りに補助金を支給します。
※1:支給開始後4週間は170円、翌4週間は171円など。令和4年4月25日の週からは168円程度。
※2:令和4年4月25日の週からは上限を35円に拡充。さらなる超過分についても1/2を支援。
※3:上限は令和5年1月からは33円、2月は31円、3月は29円、4月は27円、5月は25円と減少させていく。なお、上限を超過した分への1/2支援は維持する。
引用:経済産業省資源エネルギー庁特設サイトより
このように、この補助金制度は、あくまでも「燃料小売価格の急騰を抑制する」ためのもので、燃料価格を引き下げることは考えられていません。また、基準となる「全国平均ガソリン価格が1リットル170円」についても、ガソリンの小売価格を170円以下に抑えることを目的としているわけではありません。
なお、燃料油価格激変緩和補助金の対象となる燃料油は「ガソリン/軽油/灯油/重油/航空機燃料」で、燃料油価格激変緩和措置の期間は令和5年9月末までとなっています。
参照データ:激変緩和事業の効果を示すデータ
物流業者が検討すべき燃料高騰対策について
ここまでは、急激な燃料費高騰を抑制するため、日本政府が行っている対策について解説しました。上で紹介したように、燃料油価格激変緩和補助金は、燃料小売価格を引き下げるための対策ではありませんし、多くの燃料を使用する物流企業にとっては、あくまでも「これ以上の負担を抑制する」程度の効果しか見込めません。
例えば、2023年5月現在、170円前後を推移しているガソリン小売価格の全国平均は、2020年4月の段階では125円前後だったことを考えると、物流業界の負担がどれほど大きいのかよくわかるはずです。実際に、燃料高騰による影響を運賃になかなか転嫁できない中小の物流企業では「走れば走るほど赤字になる」深刻な状況も発生しています。
それでは、物流業者ができる燃料費高騰対策は、どのような方法があるのでしょうか?以下で、燃料費削減に有効だと考えられるいくつかの取り組みをご紹介します。
参照データ:2020年4月のガソリン価格
①燃料サーチャージ制の導入
一つ目の対策は、燃料サーチャージ制の導入です。燃料サーチャージは、以下のような制度です。
燃料サーチャージは、燃料価格の上昇・下落によるコストの増減分を別建ての運賃として設定する制度です。
現状の燃料価格が基準とする燃料価格より一定額以上、上昇した場合に、上昇の幅に応じて燃料サーチャージを設定または増額改定して適用するものです。一方、燃料サーチャージの設定時点より下落した場合には、その下落幅に応じて減額改定し、また、燃料価格が基準とする燃料価格よりも低下した場合はこれを廃止します。
引用:国土交通省資料より
燃料サーチャージについては、2008年に国土交通省がトラック事業者の保護を目的として「トラック運送業における燃料サーチャージ緊急ガイドライン」まで制定し、荷主や元請けとの交渉を呼びかけています。
さらに、ここ数年の急激な燃料費高騰もあり、国が荷主企業へ直接燃料価格の上昇を運賃に反映するよう協力を要請する動きなども出て来ています。これにより、燃料サーチャージ制の導入について、物流事業者から荷主企業への交渉を後押しするような状況が作られ始めています。
②燃料消費量を削減する活動
燃料サーチャージ制の導入は、荷主企業の協力が前提となるため、政府の後押しがあったとしても導入のハードルはなかなか高いです。そこで、物流企業は、自社のみで検討できる取り組みについても考えていくべきでしょう。
- 燃費性能に優れた車両を導入する
ハイブリットトラックや電気トラックなど、低燃費な車両の導入により燃料コストの削減を目指す方法があります。また、近距離配送(地域配送)部分は、電動自転車とリヤカーを使用することで燃料コストの削減を目指すことが可能です。次世代トラックの導入は、カーボンニュートラルに向けた物流業界での取り組みとしても重要視されています。 - 業務の効率化による車両台数の適正化
配送コースや納品頻度の見直しなどによる業務の効率化も燃料消費量の削減に有効です。例えば、今まで10台のトラックで配送していたルートについて、配送コースの組み替えで8台にすることができれば、それだけ燃料消費量を減らすことができます。他にも、1日3回の納品を2回にまとめる対策も、トラックの走行距離を減らせます。 - ドライバーの協力
燃料消費量削減は、配送業務を担っているトラックドライバーの協力が欠かせません。トラックドライバーが、普段からエコドライブを心がけるだけで、配送時の燃料消費量の削減が期待できます。例えば、急発進・急加速をしない、休憩中や荷物の積み込み・積み下ろし中はエンジンを切るといった当たり前の対策でも、長期的に見ると燃料消費量の削減に寄与します。トラックドライバーに対して、エコドライブを意識してもらうためには、運行管理システムを導入し、走行距離や速度の履歴情報などからドライバーごとの車の使い方を把握し、低燃費で運転ができているドライバーを評価するなどの方法が有効です。
まとめ
今回は、物流業界の大きな悩みの種となっている、燃料費高騰について解説しました。
燃料価格の高騰に関しては、政府が『燃料油価格激変緩和補助金』を制定するなど、負担軽減のための対策が行われています。しかし、この制度は、あくまでも「燃料価格の急激な高騰を抑制」することが目的で、現在の燃料価格が引き下げられるといったことは期待できません。記事内でもご紹介したように、2020年4月から考えると、ガソリン価格が50円近くも上昇しており、多くの燃料を必要とする物流企業にとっては、深刻な悩みとなっているはずです。
燃料価格については、今後もしばらくの間は現在の高値で推移するのではないかと予想されていますので、政府によるさらなる対策を期待するのではなく、荷主企業と交渉し「燃料サーチャージ制度」を導入する、燃料消費量を減らすといった社内の取り組みを強化する必要があるのではないでしょうか。
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