冷蔵・冷凍倉庫の火災発生リスクと建設の際に注意したいこと
投稿日:2022.10.31
更新日:2024.08.26
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食品のネット通販やオンライン配送サービスの成長などを背景として、近年では冷蔵・冷凍倉庫の需要が急激に拡大していると言われています。実際に、物流関連のニュースを集めたWebサイトを定期的に確認していると、最近は冷蔵倉庫の新設が活発化しているといったニュースを目にする機会が増えています。
この記事をご覧になっている方の中にも、冷蔵倉庫の新設を検討しているという方が多いかもしれません。そこでこの記事では、冷蔵・冷凍倉庫の火災リスクや実際の火災事例などをご紹介します。なお、この記事の中では、冷蔵・冷凍倉庫の火災リスクを最小限にまで抑えるための対策についてもご紹介します。
冷蔵・冷凍倉庫の火災発生リスクについて
それではまず、冷蔵・冷凍倉庫特有の火災リスクと実際の火災事例についてご紹介します。冷蔵・冷凍倉庫は、生産のための設備などはなく、基本的に倉庫内で大型機械などを動かしているわけではないため、大規模施設の中でも火災リスクは低いと考えられがちです。しかし、冷蔵・冷凍倉庫は、建物に使用されている建材が原因となり、大規模火災に発展してしまうリスクが高いという特徴があります。
一般的に、10℃以下で物品を保管する倉庫は全て冷蔵倉庫に分類されていますが、冷蔵倉庫の中でも特に保管温度帯が低いものを冷凍倉庫と呼びます。冷蔵・冷凍倉庫と一般の倉庫との違いは、倉庫内の温度を常に低温状態で保っていなければならないという点で、それを実現するため、冷蔵・冷凍倉庫は、天井、内壁、間仕切り壁など、倉庫全体に断熱材が施されています。ただ、倉庫の断熱性を確保するための断熱材は、火災が発生した際、急激にその火災を拡大させてしまうという厄介な特徴を持っています。
冷蔵・冷凍倉庫では、ウレタン樹脂やスチロール樹脂などの断熱材を鋼板で挟んだ『断熱パネル』と呼ばれる建材が多く用いられています。断熱パネルは、優れた断熱性能をもつだけでなく、施工の容易性や経済性に優れているなど、さまざまなメリットを持っていますので、施設規模が大きな倉庫では非常に重宝されます。生産工場と異なり火気使用のない倉庫に於いては断熱パネルを採用すれば火災リスクは低減できます。一方、外壁などの内側に直接ウレタンフォームを吹き付ける発砲ウレタンと呼ばれる断熱材がありますが、そちらを採用する際は火気使用がない倉庫であっても火災リスクに備えた工法を採用する必要があります。
なお、生産工程や生産設備が無い倉庫で火災が発生する原因、要は「火源」は、電気設備などで生じるスパーク、漏電によるショート、倉庫の改装時の火気使用作業、タバコの不始末、放火などに限定されます。
冷蔵・冷凍倉庫の火災事例
上述のように、倉庫は生産工程がありませんので、大規模施設の中でも、工場と比較すれば火災リスクは低いです。ただ、冷蔵・冷凍倉庫は、建物に採用される建材が要因で、一度火災が発生してしまうと、急激に延焼するという特徴があります。そして、火災の原因は、建物や電気設備などの経年劣化などが考えられます。
実際に、2022年7月にも、以下のような冷蔵・冷凍倉庫火災が発生しています。
2022年7月、茨城県の冷蔵・冷凍倉庫火災では、建築面積7261㎡の建物で、なんと92%に当たる6683㎡が消失する大規模火災が発生しています。この火災は、消防の基準に照らすと『全焼』に当たるとのことです。
この倉庫火災は、鎮火までに約5日間もかかっているのですが、長時間燃え続けたことで、建物内部にまで火が広がり、広範囲の消失に繋がったそうです。冷蔵・冷凍倉庫では、断熱性が非常に重要になることから、施設の規模に対して開口部が少なくなるのが特徴です。さらに、外壁と内壁の間には、ふんだんに断熱材が設置されていますので、構造上、消防隊の放水が十分な効果を発揮できないケースが多いとされています。
※火災原因は検証中
冷蔵・冷凍倉庫の建設は、建物と設備が別会社に発注されることが多く、「倉庫の外側をゼネコン、内側を冷蔵設備の専門業者」と分かれます。
例えば、冷蔵・冷凍倉庫建設では、壁や屋根の断熱について、鉄骨造の場合は前述のとおり断熱パネルが採用されることが一般的ですが、経済合理性などを考慮した結果、発砲ウレタンを採用されることがあります。鉄骨造の倉庫では、鉄筋コンクリート造と比較して温度変化や地震等で鉄骨や外壁の動きが大きくなります。経年劣化等によって徐々に隙間等が生じてしまい、倉庫内に外気が入ってしまうようになります。このような状況になると、結露が発生しやすくなるので、最悪の場合、倉庫内で漏電が発生し、火災に発展することも考えられます。
本来、ウレタンが露出するような断熱を行う場合、ウレタン表面に不燃コートを塗布することで火災リスクを低減するということが基本なのですが、実績の少ない設計者や施工者の場合、この基本を知らずに設計や工事を行ってしまうことがあります。
茨城県の冷蔵・冷凍倉庫火災原因は現在も検証中であり今回記載した内容が原因とは限りませんが、冷蔵・冷凍倉庫は、商品に適した保管温度帯を絶対に逸脱できないことから、高い断熱性能が求められます。しかし、その断熱性能を実現することにより、火災の発生リスクや拡大リスクを高めてしまう場合もあります。したがって、そういったリスクを最小限に抑えることができる知識と経験をもった建設会社に、設計・施工をまとめて任せた方が、安全性の高い施設が実現できます。
冷蔵・冷凍倉庫の火災対策について
上述しているように、冷蔵・冷凍倉庫では、倉庫内の温度を効率的に保つ目的で、ウレタン樹脂やスチロール樹脂などの可燃性合成樹脂が建材として多く使用されています。そして、これらの建材が使用されていることから、万一火災が発生してしまうと、建材から発生する可燃ガスによって燃焼が急激に拡大する恐れがあります。なお、ウレタン樹脂の引火点(可燃性蒸気を発生させる温度)は約310℃、スチロール樹脂で約360℃です。火災が発生した時の室温は、500℃程度まで達するとされていますので、建物各所に断熱が施されている冷蔵・冷凍倉庫は、一度火災が発生すると、可燃性合成樹脂による延焼の拡大は避けられないと考えた方が良いです。
冷蔵・冷凍倉庫は、生産工程などはないので、火災の発生原因は、電気設備のスパーク、改装工事による火気使用、従業員のタバコの不始末や放火などに限定されます。この中でも、電気設備と火気使用に関しては、特に注意しなければいけません。
- 電気設備に関して
天井や壁に設置される照明設備、換気ファンや天井裏に配線された電気ケーブルなどの損傷、短絡(ショート)によって出火する危険性があります。したがって、電気設備については、定期的に専門業者による点検、メンテナンスを行うことが重要です。なお、サンドイッチパネル内部に電気ケーブルが配線されている場合、点検、メンテナンスが非常に困難になる上、ケーブルのショートなどにより、パネル内部で火災が発生する恐れがあります。パネル内部での出火は、可燃性合成樹脂の燃焼に直結するため細心の注意が必要です。 - 火気使用について
冷蔵・冷凍倉庫では、定期メンテナンスや改装工事の際に、作業員の火気使用作業によって火災が発生したという事例がたくさんあります。作業者が、断熱パネルやウレタンフォームの火災危険性を認識していない場合、安易な溶断・溶接作業によって火災に発展してしまう危険性があります。したがって、そういった場所での火気使用がある場合、事前に火災危険性を認識させる必要があります。
参照:製品安全データ
まとめ
今回は、ここ数年、急激に需要が高まっている冷蔵・冷凍倉庫の火災リスクについて解説してきました。冷蔵・冷凍倉庫は、10℃以下といった、低温の保管温度帯を維持しなければならないことから、高い断熱性能が求められ、倉庫内の各所にはふんだんに断熱材が設置されることになります。
ただ、この記事でご紹介しているように、冷蔵・冷凍倉庫に施工される断熱材は、万一火災が発生した場合、可燃ガスを発生させてしまうことから、倉庫そのものが火災の拡大を手助けしてしまうという厄介な特徴を持っています。上述しているように、火災が発生した時の倉庫内の温度は、建材の引火点を優に超えてしまうことから、冷蔵・冷凍倉庫は、一度火災が発生すると、可燃性合成樹脂による延焼拡大は避けられないという特徴を持ちます。
つまり、冷蔵・冷凍倉庫は、「火災を発生させない」ということに重点を置いて設計する必要がありますので、一般的な設計の知識だけでなく、冷蔵・冷凍倉庫ならではの知識が必要です。こういった特殊な施設は、経験が非常に重要になりますので、特殊倉庫の建設はぜひ実績豊富な「RiSOKO」にご相談ください。
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